Still 12

 舞子の言葉にショックを受けた三人。
 すでに竜崎が側にいないことには気づかずに、ただ舞子を見ていた。
「……幼馴染?」
「まあ、幼馴染と言えばそうだと思うけど」
 舞子とは三年でようやく大石だけ同じクラスになったとはいえ、テニス部でちょくちょく顔を合わせることがあった。それに手塚とはほぼ毎日部活で顔を合わせている。それなのに知らなかった事実に三人は驚いていた。
「幼稚園に入る前から一緒に遊んでたしね。あ、もちろん由里絵たちとも」
 加えて言うならば悠樹、千尋、真琴の笹山兄妹も近所に住んでいるため、由里子、昌一も含め遊んでいたと言う。
「由里香さんは?」
 由里香は辰巳兄妹の一番上で、彼女の名前があがってもおかしくはないのだが、舞子は由里香の名前を挙げなかった。
「ああ、もちろん由里香姉さんもなんだけど……ほら、私と由里香姉さんとじゃ、九歳も離れてるから、忙しくてなかなか遊んでもらえなかったのよね、物心ついてからは」
 舞子たちが生まれたときすでに由里香は小学生だった。しかもテニスクラブに入っていたため、なかなか遊ぶ時間が取れなかったと言う。由里香が中学にあがってからはさらにその傾向が強くなった。
「まあ、そんなわけで、周りが青学しか受けないって決めてたから、私もそれでいいやって……」
 両親もそれでいいよって言ってくれたし。
「確かに今考えると、よく他受けなかったと思うけどね」
 話を元に戻して舞子は言う。
 それでも受かって青学に通えているから考えたこともなかったと。
 
 
「それでなんでこんな話になったんだっけ……?」
 ふと思い出したのか、立ち上がり、伸びをしながら舞子は三人を見る。
「ああ、それは江夏が朝練があるときは遠いから練習ができないって言ったからだよ」
 考えるそぶりを見せずに乾は話す。
「あ、そっか」
 なるほど。
 そうだそうだと納得した様子の舞子に、大石がさらに問う。
「朝練がなければ、してるのかい?」
「うん。やってるね」
 迷いなく言い切った舞子に、乾はノート片手にコート上に視線を向ける。
「それは手塚も?」
「そうだよ。基本的に時間があるときだけだけど。たいてい由里香姉さんが、みんなのその日の体調にあわせて相手してくれるよ」
 舞子の言葉のとおり、コートでは由里香がそれぞれを気遣いながらボールを打っている。
 それは昨日の昌一たちほどの厳しさはない。
 元々そういう人なのか、朝が早いと言うことと、この後さらにレギュラーたちへの指導が控えているから無理はしていないのかのどちらかと考えられる。
 
「悠樹、真琴、それから国光。今日はあがりなさい」
 
「はい!」
 四人が見ている中で、由里香が三人の名前を呼ぶ。
 それに答えたのは真琴だけだったが、他の二人も頷いてコートを出た。
「あら、おはよう。早いのね」
「「「おはようございます」」」
 そしてその先にいた大石たちに気づいてあいさつをする。もちろん、大石たちも。
「まさか手塚がこんなことをしているとは思わなかったよ」
 きらりと眼鏡に太陽の光を反射させながら言う乾は、いいことを知ったとばかりにノートにメモを取っている。
「…………」
 小さくため息をつく手塚。そんな二人を周囲は面白そうに見ている。大石は困ったような表情をしていたが。
 
「舞子! 入っていいよ」
 
「はい!!」
 けれど舞子が名前を呼ばれてそこから抜ける。
「……江夏さんは、終わってたんじゃないんですか?」
 一人で座っているからそうだと思ったと言う不二に、真琴はいいえ、と首を横に振った。
「単に休憩していただけ。舞子は少し休憩取っていれば、結構長くやれるから」
 私たちは無理ね。
 そんな風に真琴は自分たちを評す。
「あと、もう時間も微妙だしね」
 そう言われて大石たちが時間を確認すると、確かにもうすぐ起床時間だ。その後、時間を置いて朝食になるので、それまでには食堂に集まっていなければいけない。
「今から休憩を取っていても、俺たちが練習を再開できる前に時間が来るからな」
 けれど、時間が近いと言うだけでは真琴の言った意味が分からなかった。
 それに補足する形で悠樹が説明してくれたので、大石たちは理解できた。
 
 つまり由里香が判断した中では、しっかり休憩を取れば練習再開はできる。けれどそのために三人が必要な休憩時間が、朝食までの残りの時間では足りないと言うことだった。

– CONTINUE –

2018年12月14日

Posted by 五嶋藤子