Still 13

 二日目の練習では、レギュラーへの指導に辰巳由里香、辰巳昌一、笹山千尋、笹山真琴が、一般部員のほうに笹山悠樹と辰巳由里子が当たることになった。
 これは由里香の言葉を借りるなら「ダブルスだと相手に合わせる気があるのは由里香が相手した二人だけ」と言う理由がひとつ。ダブルスの弱い青学(主に男テニ)のダブルスの底上げを行うために、ダブルスをメインに試合をすることの多い人間が指導するというのが由里香たちの間で決められた。
 もっとも、シングルスのほうが手薄の女テニに対しては由里絵が「シングルスのほうの底上げをして欲しい」と言ったが、由里子に「由里絵と由里菜がいるじゃない」の一言、そして真琴の「それにダブルスの層が厚いわけでもないでしょう? シングルスは由里絵と由里菜の二人は勝てるけど」の言葉で黙らされた。
 また、男テニではランキング戦によってレギュラーを決めているため、どうしても個人の実力だけで決まっている。そのためダブルスが強い人間であってもシングルスで勝てなければレギュラーになれない。ならば、個人の実力の底上げをする必要があると言うことで、シングルスの悠樹と由里子が一般部員のほうへ行ったのだった。

◇◆◇

「まず、練習試合をしましょう」
「は?」
 由里香の一言に、その場にいた全員が目を見張った。
「なんで今更……」
「私はこの子たちの実力を知らないから」
「……試合映像……」
「DVDあったよね……」
 真琴と千尋の疑問に、淡々と由里香は話す。
「送ってくれなかったじゃない。それに 私が東京に戻ってきたのは一昨日の夜中。見る暇なんてあるわけないでしょう」
「…………」
「ご、ごめんなさい!」
 由里香の言葉によってようやく練習試合をする意味を知った真琴、千尋、昌一の視線は由里絵へと向けられた。……いや、全員の、と言ったほうがいいだろう。
 そして当の由里絵はとっさに謝る。今、気付いた、と。
 そのことに、舞子や由里菜はなんで忘れるの? とか、そのせいで練習時間が減る!! と表情に出した。が、
「だから、やってみて。組み合わせは任せるし、男女同時にしていいから」
 由里香はそれ以上過去のことは言わずに、AコートとCコートを指した。
「…………それじゃあ、やってみるね」
 由里香が由里絵に対して何も言わずに話を進めたため、真琴たちは話を戻すことができず……さらに何も言えない立場の舞子は、それなら早く終わらせて練習をしようと口を開いた。
 
 
 
「由里絵対由里菜が6-7。国光と不二君が6-4。――――」
「へー」
「一番時間がかかったのはこの二組?」
「ああ。他はまあ、とんとんだな。男子のほうが若干長いけど」
「女子は実力に差があるってこと?」
「そういうわけでもないと思うけど……。差があるのは由里絵と由里菜、それから舞子と他の女子くらいじゃないかな」
「ふうん」
 由里香の確認に昌一はストップウォッチとメモを確認しながら答える。出てきた時間に浮かんだ疑問を口にした真琴は、千尋の言葉に何度か頷いた。
「男子も差はあるようね」
「だな。でも、体力と執念はあるからなぁ」
 しぶといしぶとい。
 試合終了直後の数名が息を切らしている中で、笑みを浮かべながら――――少しだけ感心したような表情の昌一。
 まあ、そのせいで時間を喰ったのは間違いない。――――当初麻里香が予定していた練習時間にまで食い込んだくらいには。
「この時間じゃ、指導するには足りないね――――もう少し、まとまった時間じゃないと中途半端に終わってしまうし」
 さて、どうする?
 問われたのは中等部の生徒たち。
 顔を見合わせた生徒たちは、どうすればいいのかと……由里絵、由里菜、舞子を見る。
「どうするって言われても……なんでもいいの?」
「良いよ。ま、時間内に終わるものであれば」
「…………それじゃあ」
 由里香の肯定に、代表するように由里絵が一言。
 
「由里香姉さんの実力をみんなに見せて」

– CONTINUE –

2018年12月14日

Posted by 五嶋藤子