Still 14
「実力と言われてもねえ……」
それこそ昨日見たでしょう?
首をかしげた由里香に、首を振る由里絵。
「私たちが相手じゃ、ほんのちょっとしか力を見せてないでしょう? 私が言っているのは、“もっと”見せて欲しいってこと」
「兄さんたちなら私たちよりはましでしょう?」
だから、兄さんたちの誰かだったらいいんじゃない?
「…………この中だったら……俺か? 悠樹が一番いんだけどな」
由里菜の言葉に答えたのは昌一だ。現在この場にいるのはダブルス担当のみだが、その中で考えれば強いのは昌一だった。
もちろん本人の言ったように悠樹がこの場にいれば悩む必要はなかった。何せ、悠樹はシングルス1をする実力を持っているのだから。
しかし、今は一般部員の指導に行っている。昨日のようにレギュラーコートへ顔を見せないところを見ると、指導に集中しているのだろう。
「――――悠樹を呼ぶわけにもいかないし……」
仕方ない。
そう言って、由里香は小さくため息をついた。
「昌一、コート入って」
「りょーかい」
◇◇◇
「いつも思うんだけど、どうしたらあの体勢であんな球を打てるんだろうね」
「知らない」
この試合を希望した由里絵の疑問に由里菜は素っ気無い。
けれど由里菜も同じことを思っているのだろう、試合をしている姉と兄の動きをひとつでも見逃さないように見ている。
「やっぱり体のバランスかな……?」
「反射神経」
「足が速いから?」
「動体視力」
「身軽?」
「――――」
「相手が昌一さんだからじゃないのか?」
由里絵と由里菜、交互に思いつく理由を挙げていたところに割り込んできた声。
ちらりと由里絵が見た先には幼馴染の手塚の姿。
「どういうこと?」
「由里香さんはずっと昌一さんを見てきた。だからその癖や、次にどう動くのかがわかるんじゃないか?」
それは俺たちを相手にしている時もそうだから、どうして今撃った球があの位置や体勢で撃てるのか不思議に思ってしまう。
「その可能性はないか?」
「…………ありえる」
少し間をおいて、由里絵は今気付いたと言わんばかりにため息をついた。
「それじゃあ、どうやっても私たちじゃ勝てないってこと?」
実力の差はもちろんある。あるけれど、今の状態では万が一もないのか。そんな舞子の疑問に答えたのは由里菜だった。
「さすがにそこまでは言わないんじゃない? ただ、そのことを頭に入れた上で動かなきゃいけないってことでしょう?」
難しいけど、と言いつつも視線はしっかりとコートの上。
相変わらず二人とも息を切らしていない。あれだけ動いているにもかかわらず。
私たちが勝てないのは持久力のさもあるからかな、と思いつつ由里菜は二人、特に由里香の動きを見逃さないようにしている。
そして由里菜の視線が主に由里香を追っていることに気付いている由里絵は、相変わらずだと内心で思う。
相変わらず由里菜は由里香姉さんっこだ、と。
本人は、きっと気付いていない。由里香姉さんの動きを見逃さずに自分の糧にするためだと言うだろうけれど、と。
まあ、自分も人のことは言えないし、と、由里絵の視線も由里香に向かっている。
そして彼らの兄妹、幼馴染以外のレギュラー部員はと言うと、目の前で繰り広げられているレベルの高い“試合”に釘付けになっていた。
はじめこそは由里絵たちの会話を聞きながら試合を見ていたのだが、途中からそれは出来なくなっていた。
試合に集中していなければいろいろなことを見逃してしまう。
由里絵たちのように会話をしつつ、なんてことは出来ない状態だった。
だから由里絵たちと手塚が今まで見たことないくらいに親しげに話していても、それを気にする余裕ははっきり言ってなかった。
そんなことを気にするくらいなら目の前の試合を見逃さないようにするほうがマシだ。
その考えで、この場にいた全員が二人の試合に熱中していた。
初日の試合など、由里香にとっては試合ではなかったのだと誰もが感じるくらいには、その実力の差を思い知らされていた。
– CONTINUE –