夏休みの一コマ

「……ヒマ」
「何言ってるのよ……宿題は山積みでしょ」
 大の字に寝転がった由里子の呟きに、机につき、夏休みの宿題に向かっていた真琴は呆れたように言う。
「だってー」
「別に由里子がそう言うならそれでも良いけどね。由里香姉さんに手伝ってもらおうとは思わないほうが良いんじゃない?」
「……姉さんのほうが忙しいから?」
「それもあるけど、由里香姉さんって夏休み最終日は宿題終わらせてて、遊ぶ人じゃなかった?」
「――――大学生には宿題はないよ」
「それに夏休みは私たちより長いし? でも、なんだかんだで忙しそうじゃない」
 今日もいないし。
 真琴の言葉に由里香は「そうなのよ!」とがばっと起き上がる。
「部活が休みだから、姉さんとテニスしようと思ったのに!」
「……滅多にない休みだから、テニスから離れなさいってことじゃないの?」
 真琴が由里子の家に着いた時にちょうど出かけていった由里香に言われたことを思い返しつつ、そう言う。
 けれどテニス大好きの由里子にはそれが通じないようだ。
「せっかく時間があるのにー」
「…………」
「何で女テニは休みなのよ。男テニはやってるのに」
「それは今まで休みがなくて、宿題やる暇がなかっただろうって先生が言ってたじゃない」
「宿題なんて良いじゃないー」
「そして休み明けに怒られるの? 私は嫌よ。特に竜崎先生にはなんて言い訳するのよ。部活のせいって? それこそ部活時間減らされちゃうじゃない」
「それは嫌ー」
「じゃあ諦めなさいよ」
 さっさと終わらせちゃおうよ。
「それに……休み最終日の前に終わらせたら、その日は由里香姉さん、テニスに付き合ってくれるかもよ?」
 最終日は休みだったし……。
 いい考えだ、と思ったことを真琴が口にすれば、由里子の表情が変わる。
「それだ!!」
「…………」
 大きな声を上げてすぐに宿題に向き合いだした由里子に呆れた表情を向けながら、幼馴染が単純でよかったと真琴は思った。

– END –

2020年10月25日

Posted by 五嶋藤子