GAME 4

 翌朝。
 ほぼ同時に起き出した柚木と櫻也が見たのは、ソファーに座って本を読んでいる父親の姿だった。



「仲直り早いよ」
「……柚木は両親が喧嘩したままでも平気なのか」
 そうかそうか。
 そんな風に柚木の言葉に反応した父親に、がっくりと肩を落とす。
「そうじゃないけど! ……でも、あれだけ喧嘩しててそんなに簡単に仲直りできないだろうなって思って……どうすればいいか結構悩んだんだ」
「どうするつもりだったんだ?」
 本を閉じながら問う父親に、柚木は首を振った。
「父さん達が仲直りできる方法なんて、簡単に分かるわけないし……」
 ぼやく柚木の隣では櫻也も首を何度も縦に振っていた。

「――――あんまり息子をいじめないでよ」

 柚木が膨れている中、呆れた声をかけたのは蔵馬。
「おはよう、柚木、櫻也」
「「おはよう!!」」
 すると二人とも大きな声で挨拶を返す。
 それに以前と変わらない、と思ったのは二人の両親。
 しかし、その反応に驚いた者たちもいて――――

「朝っぱらから元気いいなあ……」

 蔵馬の背後からひょいと顔を出したのは桑原。
「……おはようございます」
 律儀に言うのは櫻也。
 つられて柚木も頭を下げるが、桑原は目を丸くしながらも「おう」と言葉を返す。
「……つーか、増えてるし」
 そういいつつ桑原の視線の先には慈雨。そんなことを言われている慈雨自身は、興味なさげに再び視線を本に落としていた。
「こいつがおめーのだんなか?」
「そうですよ」
 さらりと言う蔵馬に、内心で驚きつつも今更それを表に出すのは馬鹿らしくて、ただ「へー」っと口にした桑原だった。
 大体、蔵馬に“夫”がいると言うことよりも先に“子ども”がいると言うのを知ったのだ。その時に驚きすぎて、その子ども(櫻也)の“父親”、つまり蔵馬の“夫”のところまで意識が向かなかったが、ふと考えてみればいて当たり前なのだ。
 “シングルマザー”とも考えられるが、蔵馬が櫻也の“父親”――その時は父親だとは知らなかったが――の名前を口にしていたのだから、“いる”のだ。
 それに気付いたときには驚いたものの、子どもがいるからいて当たり前だよな……と、両親ともに健在の自分のことを考え、納得した。
 あとはただ、どんな妖怪なのだろうと言う興味がわき、そして今朝起きて感じた妖気に柚木は父親似なんだな、と思ったのだった。
 次に目にした“慈雨”は大した妖気は感じないものの、“美形”と評さずに何と評するのだと言う外見をしていた。
(こりゃ姉貴たちがうるさいかもな……)
 などと思ってしまったくらいだ。

◇◆◇

「…………弱そう」
 裏御伽チームを見た柚木はそんな感想を漏らした。
 それに慈雨は苦笑し、櫻也は首をかしげた。
「兄様、昨日の試合見ていないの?」
 確かいたよね、と確認する櫻也にそうだけど、と柚木は言い訳をする。
「興味なかったからあんまり見てない」
 そんなに強そうな妖気感じなかったから。
 実際強くなさそう、と続ける柚木に櫻也はふーんと返すのみ。
 そんな兄弟のやり取りを黙って見ていた慈雨は呆れ顔だ。
「少しは興味を持て。蔵馬が戦う相手なんだからな」
「いくら母さんでも、あいつらには負けないでしょ」
「弱いもんね」
「さて……どうかな」
 兄弟の楽観的な言葉を慈雨は肯定しなかった。
 むしろ不安を生むような言葉をつむぐ。
「父さん?」
「…………」
「いくらなんでも、それなりの力がなければ準決勝まで勝ちあがることは出来ないさ、くじ運が良くてもな」
「でも、すっごく弱かったんだよ。前の試合の相手。二分で終わっちゃったもん」
「――――――弱すぎ」
「それでも……」
 それでも母たちは負ける可能性があると言うのか。
 尋ねる櫻也に慈雨はリングに上がる飛影と魔金太郎を見る。
「相手が弱いからその相手も弱いとは言えないだろう? 強い場合もある。――まあ、もちろん弱い場合もあるが……それでも――――」
「それでも?」
 途中で言うのを止めてしまった父親に、柚木は首をかしげて続きを促す。
 櫻也も慈雨をじっと見つめていて、試合は一切目に入れていない。
 そんな二人に視線を向けずにふっと笑った慈雨は
「感じないか? ―――― 一部、強いとは言えないが、何かを隠し持っているのが」
 それはきっと、この試合を動かす。
「そ――――」

『飛影選手の勝利です!!』

 それは何? と尋ねようとした柚木の言葉を遮るように審判の声が会場中に響いた。
 それでようやく今何が行われているか思い出したのか、二人が慌ててリング上を見るとそこには頭に剣を刺されて倒れている魔金太郎。

 …………

「やっぱり弱いよ」
 一分と経ってないんじゃないのか、と呆れる柚木と櫻也。
 さすがにそれには何も言えない慈雨だが、自身の言ったことを撤回する気はない様で、ただ笑みを浮かべているだけだった。

– CONTINUE –

Posted by 五嶋藤子