Raining in the sun shine 24
耳元で嘆かれているようだ。
無表情に寒凪はつぶやいた。
それを耳にした者はいなかったが、誰かに言いたいがために口に出したわけではない。ただ寒凪は事実を言ったまで。
急に起きた幽助が飛び出していくと、それを追うように桑原も出て行った。しかし寒凪は動かなかった。
どのような結果になるかは既に聞いている。
それが変わるとも思えなかった。
だから動かない。動く必要も感じない。
こんなことを“人間の家族”に言えば、不興を買うことは必至だ。
どうして“あの人”に対してそんなことを言うのか、と。
寒凪が区別をつけないだけだとわかってはいても……それでも叫んでしまうだろう。
だから寒凪は何も言わずにここに来たのだ。言えば、説得するように言われただろう。
しかしそれは無駄なことだ。幻海が一度決めたことを、翻させることなど出来ない。それは彼らもわかっているだろう――――だからと言って、それを受け入れることなど、出来るはずもない。
そのことを考えれば“戻った”時が大変だと今からため息をつく。
どう言って幻海の“死”を納得させるか――――。
◇◆◇
蔵馬とともにいた慈雨は、桑原が合流し、何故か現れた鈴木と蔵馬たちのやり取りを少し離れた位置から眺めていた。
(なるほどなあ……)
蔵馬の時が戻った種明かしをされれば、なるほど、と思う。
さすがに最近の魔界のことを慈雨は知らない。そもそも戻れないのだから仕方がない。情報源である喜雨もまた、最近は魔界のことを気に留めていない様子だったから、聞くこともなかった。
(けど、危ないよなあ)
どんな副作用があるかわからない。
その時点で普段の蔵馬なら使わないところだ。
しかし今はそんなことを言っている暇はない。
今の蔵馬では決して鴉には勝てない――――妖狐に戻らなければ、決して。
それは蔵馬自身理解しているだろう。
悩む様子を見せながらも……内心では使うことを決めているはずだ。ただ、“使ってみてから本番で使うか決める”だけ。
(それでも、やっぱり……)
止められるものなら止めたい。
慈雨は喜雨のように暗黒武術会に対して、その決まりに従わなければならないとは思っていない。
喜雨は以前の大会を、様々な思いを抱きながら見てきたが慈雨が大会を直接見たのは初めてだ。
だからこそ、運営側に従いたくなどない。出来るものなら蔵馬を止めることだってする。――――ただ、喜雨の考えに従うと決めているから出来ないだけだ。
そしてそのことを蔵馬はよく理解しているから、慈雨がそばにいても、慈雨の考えがわかっていても、好きに行動するのだ。
たとえ慈雨が“嫌な予感”を感じていても。
「慈雨」
つらつらと考えていた慈雨は、蔵馬の声に彼女へ視線を移す。
そこには蔵馬だけで……鈴木どころか桑原もいなかった。
「あの二人はどうしたんだ」
「慈雨が何か考えている間に行ったよ。桑原君は、一人で考えてみるって」
「答えは一つしかないと思うけどな、俺は」
蔵馬だってそうだろう?
「――――わからないよ、そんなこと」
やってみなければわからない、そんなことを口にするけれど、蔵馬自身わかっている。そう慈雨は確信していた。
それでも、どんなに慈雨が言おうと「わからない」と言うのだろう。だから、と慈雨は肩をすくめた。
「じゃあ、蔵馬が納得するまで付き合うさ」
「喜雨姉様に、言われてたこととかないの?」
「ないなあ……蔵馬のところにいろ、以外には」
「いいの、それで」
「良いも悪いも……別にほかにすることねえし。蔵馬のところにいれば、主催者側からの面倒もないだろうし」
「そうかな?」
「左京はどう見ても主催者側だろうが…………」
二度とあいつとサシで会うかよ。
慈雨が(喜雨もだが)左京に呼ばれてあっていたことを知らなかった蔵馬は、ほんの少し驚いた表情をしたが、それ以上そのことには触れなかった。触れずに、慈雨に“実験”の手伝いを頼んだ。
◇◆◇
島内に発生した力、力、力。
大小さまざまな力を感じても、喜雨は表情を動かさなかった。
彼らが決意したことを喜べばいいのだろうか?
それとも、感じるその力ではまだ足りないと嘆くべきなのだろうか。
わかることはただ一つ。
「我には、どうすることもできない」
これは、彼らが行動しなければならないことだ。
これは、彼らが越えなければならないことだ。
そこに喜雨の関わる余地は、もうない。
喜雨自身の力が必要になる、その時は――――
「すべてが終わった、そのあとじゃ」
それまでは、ただ喜雨は見守るしかなかった。
– CONTINUE –