見上げた空には
「蔵馬」
久しぶりに魔界へ来てすぐ、蔵馬は幽助に声をかけられた。
「なに?」
その表情は少し困ったような、聞きづらそうな表情で、滅多に見られないそれを蔵馬は不思議に思った。
「おめえ、この前魔界に来たか?」
「………この前っていつ?」
あまりにもアバウトな問いに、蔵馬は質問で返すしかない。
「あ~っと……二週間くらい前……だと思うんだけどよー」
記憶をたどり、ようやく時期を思い出したらしい幽助は言う。
それに対し、蔵馬は首をかしげた。
「いや、来てないよ。……魔界に来たのも結構久しぶりだし」
その答えに、幽助は「そうだよなあ…」と言って困ったように続けた。
「じゃあ、あれは誰だったんだ……?」
「あれ?」
恐らく、蔵馬に対して言われたものではなく、ただの独り言なのだろう。しかし幽助の言葉から考えると、彼は蔵馬に最近魔界に来たかと言う問いをしたほど、蔵馬に似た誰かを見たのだろう。
「オレに似た誰かに会ったの?」
人間の間では、自分に似た他人が三人はいると言う。妖怪にもそれが当てはまるかどうかは分からないが……広い魔界のことだ、もしかしたらいるのかもしれない。
と、そこまで考えてふと、蔵馬はあることに気が付いた。
「幽助……」
「なあ、蔵馬。オメーに姉妹っているか?」
「は……?」
蔵馬の言おうとした言葉を遮り、幽助は尋ねた。
そんな幽助の問いにすぐに答えることが出来ずに蔵馬は幽助を見たが、それ以上何も言わなかったため、とりあえず答えた。
「いや、いないけど……なぜ?」
姉妹はいない、と言い切った蔵馬に、幽助は頭を抱えた。
その様子は、嘘だろう、と言うものではなく、じゃあ自分が見たものはなんだったのかと言っているようだった。
「……幽助……とりあえず、お茶でも飲もう」
「…………」
その様子に呆れた蔵馬は幽助に何も言わせず、いつも魔界に来たときに皆で集まる部屋まで引きずっていった。
「それで……どうしてそんなことを急に聞くの?」
お茶をいれ、ようやくソファーに落ち着いた蔵馬は、向かいに座る幽助に先ほど尋ねようと思ったこととは別のことであるが、今度こそ遮られることなく尋ねた。
「いや~それがよー」
片手はカップを持ち、片手で頭をかきながら、幽助は最初から話し始めた。
幽助曰く、二週間ほど前に大統領官邸近くで大規模な爆発が起こった。
そしてちょうどその時、官邸では魔界の上層部を集めた会議が行われていた。もちろん、その上層部の一人である蔵馬は人間界で用事があったため欠席していたが。
実力のあるたいていの妖怪がその場にいたため、爆発に対する反応も早かった。
爆発が起こった直後に、行われていた会議を一旦休止し、その場に数人を残して現場へと向かった。
爆発は、囮である可能性も考えられたからだ。
そして現場に向かうものの中にいた幽助は、現場で銀髪の妖狐を見たというわけだ。
「もちろんそいつを見たのはオレだけじゃねえけどよ。オレらがそいつを見つけたらすぐにそいつ、走り去って行っちまったんだ」
「追いかけなかったの?」
ありえないだろうなと思いつつ、蔵馬が問うと、まさかと言う表情で幽助は否定した。
「んな訳ねえだろ……ちゃんと追いかけたぜ」
「だろうね」
「んでも、見失った」
「…………」
さらりと、しかし悔しそうに言う幽助を呆れた表情で見ながら、蔵馬は黙って次の言葉を待つ。
「すっげー逃げ足が速くてな……飛影でも追いつかねえでやんの。仕方ねーからすぐに戻って、爆発の場所を確認したんだけど、何にもなくて……で、戻ってそのこと話したら煙鬼のおっさんとか、黄泉とか躯とか……とりあえず、その辺のやつらみーんな『見間違いじゃないのか』って言いやがるんだよ……」
んなわけねーっつうのに……。
結構、幽助はそのことが頭にきているらしい。
「その場にオレ以外の飛影や陣、酎とか凍矢もいたんだぜ。そいつらもおんなじこと言ったのに、誰も信じねーんだ」
ぜってーまちがいねーってのに。
そう、自身満々言う幽助に、蔵馬はふっとため息を付いた。
「…………黄泉、幽助たちに教えてないの?」
「何をだ?」
「…げっ!!!!」
黄泉の声に、幽助は驚いて後ろを振り返り、妙な声を出した。
(……気付いていなかったのか)
結構前からいたんだけど……そう思いつつ、苦笑しながら蔵馬は言う。
「銀髪の妖狐がどれだけ珍しいか」
「……言っていない。が、それは常識だろう?」
「そうでもないよ。彼らはオレたちに比べて、若いからね」
「ちょ、ちょっと待てよ。オレを無視して話を進めるなよ!!」
分かるように説明してくれ!!
とうとう叫んだ幽助をなだめていると、その声を聞きつけたのか、はたまた蔵馬が来たと聞き、幽助と同じように妖狐である蔵馬に愚痴を言いに来たのか。先ほど幽助が名前を出した飛影や陣たちがやって来た。
そして皆、蔵馬の言葉を待っていた。
その表情にはあ、とため息をついて蔵馬は話し出す。
しかしそれは、幽助たちには簡単には信じられない話だった。
「銀髪の妖狐はね、オレしかいないんですよ」
「はあ?」
異口同音に、黄泉以外の口からそんな言葉が漏れた。
いや、飛影は言ってはいないが、どういう意味だと目が言っていた。
「銀髪の妖狐が生まれることはすごく珍しい……それこそ数千年、数万年の単位で一匹、と言うくらいにね」
「えっ……」
「オレもオレ以外で銀髪の妖狐に会ったことはないよ。他の色の妖狐はあるけど……」
そう言った蔵馬の言葉に、少し、沈黙が降りた。
黄泉以外は驚いて、黄泉はただそんな周りを面白そうに観察していた。
「…………だが、どうしてそんなことが言えるんだ? 蔵馬も全ての妖狐に会ったことがあるわけでもないだろう?」
沈黙を破ってそう尋ねてきたのは凍矢で、それに目を向け蔵馬は問いに答えた。
「それはそうだけどね……人間の姿かたちをて、獣耳や尾がある妖狐は、ある一族だけなんだよ」
「???????」
「蔵馬が言っているのは『妖狐族』と言われる一族のことだ」
理解不能、と言った表情を見せた皆に、横から黄泉が口を挟んだ。
「…………妖狐族?」
詳しく説明しろと睨む飛影に、苦笑しつつ蔵馬は口を開いた。
「人間のような姿かたちをして、耳と尾っぽがある狐の妖怪を『妖狐族』というんだ。一般的な妖狐は普通の狐が年月をかけて力を持って妖怪になったもので、そんな姿をとることはない。人間の姿かたちなることは出来てもそれは人間に化けてるんだから、獣の耳や尾っぽはない」
けど、妖狐族は生まれたときから妖怪で、化けなくても姿は人間に似ている――――耳と尾以外は。ちなみにオレは生まれたときから妖怪の、妖狐族。
「妖狐族はほぼ滅んだとされる種族だ。この魔界で見つけることは不可能」
「蔵馬がいるじゃん」
幽助の言葉に、黄泉は首を横に振った。
「それはたまたまだ。他の妖狐族がいたとしても、そいつらに蔵馬と同じように会えること言うことはないだろう」
何しろ魔界は広いのだから。
「そうなのか?」
今度は蔵馬に向けられた言葉に、蔵馬は笑う。
「そうだね……オレが生まれたときにはもう、滅びかけてたよ。妖狐族のオレでさえ、記憶している同族は三匹。ほかは皆死んだと聞いたしね」
「さ、三匹……」
「……まじかよ」
蔵馬の言葉に、信じられないと言った風にざわめいた。
「『ほかは死んだ』と言った同族は、その辺りで嘘をつくことはないからね、きっと今生きてる妖狐族はオレを含めて四匹。ま、彼らがそう簡単に死ぬことはないだろうから断定していいでしょう。その中で銀髪なのはオレだけ」
だから、君たちが見たという銀髪の妖狐というのが信じられないんだよ。
「そういうことか……」
言ったのは飛影だけだったけれど、他の皆も似たような表情をしていた。
「けど、オレらが見たのは間違いねーぞ」
「まだ言うか……」
そこまで説明しても自分たちの見たものに間違いはないと言い切る幽助たちに、黄泉は呆れ顔だ。
ただ、それでも彼らが嘘を言っている様ではないし、また、言う必要もないだろう。
そのことは黄泉にもよく分かっているから、どうしたものかと思う。
蔵馬には言っていなかったが、ここ二週間ほど、「嘘じゃない、見間違いじゃない」と「嘘だろう、でなければ見間違いだろう」の応酬だったのだ。
それで幽助たちと黄泉たちの間がごたごたすることはなかったが、あまり言い争うのもよくない。
それでも喧嘩早い者たちの集まりなのだ、今の魔界の上層部は。
しかも蔵馬がいなければ進んで書類と格闘しようと言う者もおらず。
喧嘩が始まるのは問題ないが、それで政治が滞るのもよくない。
幽助たちだけでなく、黄泉たちも蔵馬が来るのを待っていたのだ、この状況を打破してくれると思って。
しかし、どうやらそれは出来ない様子。
この会話に、きっと聞き耳を立てているだろう他の者たちも、思いは黄泉と一緒だろう。
結局、解決しなかったことに黄泉は内心で肩を落としていると、なんでもないようなことを言うような蔵馬の言葉に顔を上げた。
「まあ、銀髪の妖狐族はオレ以外にいにいないけど……銀髪に見えなくもない妖狐族はいるかな……?」
「え!?」
「それ、本当か!? 蔵馬!!」
なんとなく呟いた言葉に大きな反応を示した仲間に、蔵馬は驚いてしまった。
「え……うん」
期待に満ちた目を向ける皆に途惑いながらもそう答えた。
ただ、それだけでは答えになっていなかったようで、詳しく話せと周りの目が言っている。
それに内心ため息をつきながら、しぶしぶ蔵馬は答えた。
本当はあまり言いたくなかったのだけれど。
「知り合いの妖狐族のうち一人はね、純白の髪と尾を持っているんだ」
もしその妖狐族が君たちの見た妖狐族なら、光の加減で銀に見えたのかもしれないね。
…………
「それだ!!!」
異口同音。近くで叫ばれて耳のいい蔵馬と黄泉は耳をふさぎたい衝動に駆られてしまった。特に黄泉はそうだろう。
しかしそんなこと気付いていないのか、幽助たちはそれだそれだと嬉しそうだ。
そんな幽助たちをよそに、黄泉は蔵馬に言った。
「もしそれが事実なら……蔵馬、その者に話を聞かなければいけない」
「……だろうね」
その言葉に、蔵馬はやっぱり、と言った表情で答えた。
そして「だから言いたくなかったんだよ」とも……。
そんな蔵馬に周りは不思議そうな顔をして、それに苦笑しながら蔵馬は続けた。
「その妖狐族が、素直に同族以外に会う可能性は低いんだよ……」
躯以上に気難しいからね。
その言葉に、その場にいた全員が躯を思い浮かべ、彼女以上に気難しい妖怪とはどんな奴だと思った。
ありえないだろう、とも。
その考えが分かったのか、蔵馬は苦笑している。
恐らく聞き耳を立てている連中も、幽助たちと同じ考えだろう。当の躯は別として。
「ど、どんな奴なんだ……?」
恐る恐る、と言った感じで幽助が聞いてきた。
ほかの者も、似たような雰囲気だ。
それを見回し、蔵馬は言った。
「破壊神」
――――――
「「「「「「はっ!?」」」」」」
蔵馬の言葉にその場にいた全員がうまく反応ができずにいた。
けれど蔵馬はそれを無視して続ける。
「――――と、呼ばれているね。一般的には」
「破壊神……?」
何だそれは。
幽助の言葉に全員が同時に頷く。知っていると思っていた黄泉もまた、その中に入っていて逆に蔵馬は驚いた。
(そこまで“あれ”って昔の話だったっけ?)
そんなはずないんだけどなあ……と蔵馬は思うがしかし、実際黄泉も知らない様子。
(最初から説明しなきゃいけないの……? けど、面倒だな……)
けれどそうしなければ話が進まないことも明白。
(いいけどね……)
「雷禅が『闘神』と呼ばれていたのは知っているよね?」
「当たり前じゃねえか」
これには雷禅の息子である幽助が代表して答えた。
それに頷き、蔵馬は続ける。
「同じように『破壊神』と呼ばれる妖怪がいるんだ。……君たちが――黄泉が知らなかったのは驚きなんだけど、それくらい最近では話題になることがなくなった、けれどそう呼ばれる妖怪が――『妖狐族』がいるんだ」
蔵馬の話にみな静かに聞いている。
「幽助たちが見たのはきっと、その『破壊神』だと思う。彼女以外に、銀狐に見間違えられる外見を持った妖狐族はいないからね」
と、そこで言葉を区切り、蔵馬は部屋の入り口へと視線を向ける。そこには煙鬼以下、魔界の幹部たちがそろっていた。
「それでもよろしければ、彼女のところへ案内しますけど」
どうしますか?
そう言った蔵馬の視線の先の煙鬼たちは青くなって固まっていた。
「どう、って……」
「彼女と話をする勇気があるのでしたら、案内しますが?」
けろりとした表情の蔵馬に比べ、煙鬼たちの表情は冴えない。――いや、冴えないと言うよりはこわばっていて、恐ろしいものが目の前にあるような表情をしていた。
そんな彼らの表情を初めて間近で見た幽助たちはひどく驚いていた。
こんな風になってしまうようなことを蔵馬は言ったのだろうか。
いや、今までの話の流れから『破壊神』と呼ばれる妖狐がその原因なのは明らかだった……が。
「そんなに恐ろしいやつなのか?」
「「「「「恐ろしい!!!!」」」」」
思ってもみなかったほど強い反応に、言った幽助だけでなく他の蔵馬に『若い』と言われた妖怪たちはびくりとした。
ただ一人、蔵馬だけが平然とした顔をしていて、それを見た煙鬼たちは恨めしそうに彼女に視線を送った。
「何でそんなに平気な顔してられるんだい」
孤光の言葉に蔵馬は肩をすくめる。
「そりゃあ、オレも妖狐族ですから。――――――『破壊神』はオレの育ての親ですし」
へ?
誰からともなく、同じ言葉が漏れた。
…………
しかし、それ以上反応できるものもまたおらず……
数分後、ようやく全員が「叫ぶ」と言う反応ができたのだった。
「このあたりなんですけどね……」
先頭に蔵馬、その後ろに幽助や煙鬼たちと続く。
本来ならば向こうに来てもらうことが当然なのだが、何せ相手は『破壊神』。こちらから行かなければいけないだろうと幹部たちは考えた。そのために幽助たちに行ってもらおうと画策していた。が、同じ理由で蔵馬に大統領自身が行くことを強制された。
曰く、『破壊神』の相手に幽助たち「若者」をやっていいのか、と。
そう言われて一瞬蔵馬の言わんとするところがわからなかったようだが、続く「下手をしたらどうするのか」と言う言葉に何かしら気付いたようで、その後すぐに蔵馬に案内を頼んでいた。
そして現在、森の中を歩いているのだが――――――
呟いた蔵馬は丸く野原になった場所の中心から少し外れたところに立ち止まった。ちょうどついてきた全員が頭上に木の枝ではなく魔界の空が来る位置。
けれど何もない場所で蔵馬以外の全員が首をかしげる。
「本当にここか?」
「そうだよ」
「何にもねーじゃん」
「そりゃあ、ここに住んでるわけじゃないからね」
「…………それでは会えんではないか」
煙鬼の言葉に振り返った蔵馬は笑う。
「そうでもないですよ。……ここはオレたち妖狐族がよく来ていた場所――――監視範囲内です。オレたちが……特にオレが来たことは既に知られているはず……彼女たちがオレに用があろうとなかろうと、一度彼女たちと別れたオレの本意を確かめに来ますよ」
自信満々の蔵馬の言葉に、当の『破壊神』を知っているものは首をかしげた。
けれど、そんな煙鬼たちを尻目に、蔵馬は上空を見上げると言った。
「ほら、来ましたよ」
「「「え?」」」
そう言われ、全員が蔵馬に習うように上を見上げる。
と、そこには――――――
「なんだ、あれ!?」
幽助が叫んだ。
その視線の先には大きな蟲。なぜか恐ろしいもののように見える…………本能で嫌っているかのように。
その理由が幽助にはわからなかったが、同じような感情を抱いたのだろう他のものには理由もあわせてわかっているようだった。
「あ、あれは……!!!」
誰が言った言葉だったのか。震えた言葉はしかし、吹いた風に流され視線の先のものには届かなかったようだ。
「蔵馬、何のようだ?」
降ってきた声は落ち着いた女声。
一瞬幽助は視線の先の蟲がしゃべったのかと思ったが、よくよく見るとその蟲の背の上に一匹の妖怪が座っているのが見える。
そしてその妖怪の容姿といえば……
「あっ!! あいつだ!!!!」
「…………蔵馬、礼儀と言うものを知らぬのか、そのものは」
「すみません。……あまり気にしないたちなんですよ、彼は」
蟲の上に座った妖怪が言ったとほぼ同時に煙鬼たち『破壊神』を知っていたものたちは全員で幽助を押さえ込んでいた。
しかしそれを気にした風もなく、蔵馬は謝っただけだ。
それだけの態度の蔵馬に、内心煙鬼たちは怯えながら様子を伺う。
そんな彼らの態度に笑いをこらえながら蔵馬は続ける。
「それで、今日は彼らが用事があるそうなんで連れて来たんです。降りてきてもらえますか?」
「…………」
無言でひと睨み(と言う風に蔵馬以外には見えた)、その妖怪は巨大な蟲を地上へと降ろした。
その間に煙鬼はこそこそと蔵馬に問う。
「のう、あの蟲は妖怪を主食にするんじゃなかったか」
「そうですよ」
「!!!!!!」
何でもないことのように肯定した蔵馬に、煙鬼は言葉を失う。それはもちろん幽助たちも同様だったのだが……それでも反応をする前に目の前に降り立った妖怪に先を越されてしまう。
「それで、用件とは何だ」
腕を組み、目の前に立った妖怪は蔵馬と同じ妖狐だった。
しかも純白の長い髪に尾。
確かに光の加減で銀色に見えたかもしれない。
けれどそれを言葉にするのは躊躇われる雰囲気だった。
何がそうさせるのか、と考えたところで答えはひとつしかない。
目の前の妖狐の存在自体。
これだけでも煙鬼たちが彼女に会うのを躊躇ったわけがわかったような気がした幽助だった。
(こりゃ、和やかな雰囲気なんて夢のまた夢だ)
後に、幽助にしては的確な感想だと蔵馬に言われたことを思ったのだった。
それだけ、『破壊神』と妖怪を主食にする蟲の視線は自身では敵わないだろうと思ってしまうほど、プレッシャーがあった。
あのときの妖怪は、こんなにも相手にしたくない妖怪だったのかと、思ってしまうほど――――。
– END –
お題配布元:鷹見印御題配布所