4. エロス
「ロイちゃ~ん」
「…………何の用だ」
なぜお前がここにいる。
そんなことを思いながらぶっきらぼうに言ったロイの横に、まったく気にした様子もなくヒューズは並ぶ。
「不機嫌だな~」
「誰のせいだ」
「…………エドだろ?」
「――――――――――――」
お前だ、と言いたいロイであったが、ヒューズの言うことも正しかったので、否定も肯定も出来なかった。
「ま、仕方ないよな。――――――高等部と中等部で離れてるんじゃな」
「…………そう言うお前も高校生じゃないか」
年上の幼馴染を横目で見ながら言う。
そう、ここは中等部の校舎。
中学生のロイがいるのは当たり前だが、高校生のヒューズがいるのはおかしい。
現に周囲の学生は二人を……特にヒューズを不審な目で見ている。
まあ、当の二人はまったく気にした様子はないが。
「いいんだよ、俺は」
「グレイシアなら今は部活中だぞ」
「そうなんだよなあ~」
ロイの同級生であるグレイシアの名前を出せば、ヒューズの顔は崩れる。
「早く終わらないなな~~~約束があるんだよ~~」
「…………相手が中学生だと言うことを忘れるなよ」
「当たり前じゃねえか。お前もそうだろ」
「…………」
そうなのだ。
ロイにとってそのことが一番の問題だった。
「あいつ、絶対こっちに来ないしな~」
誘うんだけどな。
「…………」
俯いてしまっているロイは、ヒューズが横目で見ていることには気付かない。
「ロイ、お前エドとどれくらい会ってない?」
「さあ……忘れた」
それくらい、会っていない。
言外にそう言うロイにヒューズは内心でため息をつく。
(不器用だなあ……エドもロイも)
二人がお互いを好きなことは昔から見ているヒューズは知っている。
それどころか、他にいる幼馴染たちにも知られている。
分かっていないのは本人たちだけだ。
(何をそう遠慮するかねえ……)
普段は遠慮なく喧嘩やらなにやらすぐする二人なのに、こういうところはしり込みしている。
(だから俺たちがこういうことをする羽目になるんだよなあ)
今日はそのためにここに来たといっても過言じゃない。
「マース、ロイちゃん!」
二人の後ろから、聞きなれた声が呼ぶ。
「「グレイシア」」
一人はすごく嬉しそうに、もう一人はようやくこの場から解放されるという安心感で名前を呼ぶ。
「遅くなってごめんなさい」
「いや、全然待ってないから」
そうヒューズが言うと、グレイシアはそれはよかったとほっとした様子を見せる。
そんな二人を見ながらロイは少し……少し、羨ましかった。
ロイが二人を見ていると、くるりと振り返ったヒューズと目が合う。
そしてニヤリとヒューズが笑って……ロイは嫌な予感がした。
(こういう表情をするときのマースは何か企んでるんだ)
幼馴染と言えるまでの長い付き合いから、嫌と言うほど経験してきた。
どうこの状況から抜け出そうか、機会を窺っているロイに、そんな暇を与えない速さでヒューズは紙を取り出した。
「?????」
「ロイ、今度の日曜日暇だよな」
小母さんに聞いたぞ。
そのままの表情で聞いてくるヒューズに、内心で自分の母に文句を言いながら頷く。母親が既に言ったのであれば否定は出来ないし、実際予定は入っていない……。
「ここに遊園地のチケットが4枚ある。……と、言うわけでだな、一緒に行こう」
「それは良いが――――――マースとグレイシアと私と……後は誰が行くんだ?」
自分を誘うからには既にグレイシアは誘っているんだろう。
考えなくとも分かることを確認し、残りは誰だと問う。
何だか……嫌な予感もするが、それは押し込める。
「誰って、エドに決まってんだろ」
「…………なんだと!?」
「まあまあ、ロイちゃん。良いじゃない」
「……グレイシア」
タイミングよく会話に入ってきたグレイシアを、ロイはじとっと見る。
「謀ったね」
「何のこと?」
ニッコリと自分に向けられた笑みに、そう言えばグレイシアもそう言う人間だったことを思い出す。
普段はそんな様子、まったく見せないのに……。
しかも既にロイは行くことを承諾している。
たった一言、何気ない言葉でもそれを聞き逃す二人ではない。
それに、なかったことにしてくれる二人でもない。
「…………」
「と言うわけでだ、エドは俺が誘っておくから日曜日は準備して家で待ってろよ。迎えに行くから」
それじゃあな~。
言うだけ言って二人は仲良く歩いていった。
「…………」
残されたロイは、ただ、地団太を踏むしかなかった。
– END –
お題配布元:創作者さんに50未満のお題