5行以内で50のお題 1~10

1. 出会い

 赤子の産声が聞こえると、妖狐の里は喜びに包まれる。
「――――様」
 近くで聞いていた俺に、赤子の母親は手招きをした。
「どうぞ」
 差し出された体を恐る恐る抱き上げる。
 初めて抱いた赤子は綺麗な銀髪をしていた。

◇◇◇

2. 三日月

 空を見上げると、猫目のような月が私を見下ろしている。
 私の心を知っているとでも言う様に。
「残念だけど無理よ」
 玉鼎を失った本当の悲しみは、月(他人)には分からないわ。
 月に向かって私は言う。

◇◇◇

3. あの日の約束

「私が死ぬときは見取ってね」
 約束をしたその日、玄武は一日中落ち込んでいた。
 私は深い考えがあったわけではない。
 けど、今なら分かる。
「ごめんなさい」
「いい……これがお前に出来る唯一のことなら」

◇◇◇

4. 歌声

 歌声が聞こえる。
「あれは誰が歌っておるのだ?」
「僕の妹弟子です」
 疑問に答えた僕に、太公望師叔は視線を移す。
「……上手いのう」
「ええ……」
 それに頷きながら僕は言った。
「彼女は元々旅芸人一座の歌姫でしたから」

◇◇◇

5. 天使

 天使がバルコニーから落ちてきた。
「何してるんですか!」
 少し言葉が崩れたが、気にしない。
「何ってエドが見えたからね」
 近道したんだ。
「……普通に階段下りてきてください」
 けど、この女王はきっということを聞かない。

◇◇◇

6. 旅に出よう

「どこに行くの」
「さあ…気の向くままに」
「そう。私も出ようかな」
「良いのか?」
「何が?」
「捨てることになるぞ」
「蔵馬じゃあるまいし。また戻ってくるわ」
 けれど、それが叶わないことを二人は知らなかった。

◇◇◇

7. 積み木のお城

 積み上げられた城という名の希望が崩れた。
 両親は泣いた……欲求が満たされなくなって。
「残る方法は一つ……人体練成を…」
 それを聞いて、私は身震いをした。
 ――――ロイを代価に、息子をわが手に。

◇◇◇

8. 愛してました

 いつ気付いたのか忘れてしまったが、いつの頃からか好きになっていた。
 愛していた。
 そして伝えれば逃げられることも分かっていた。
 だから言わなかった。それに関しては口を噤んだ。
 そして永遠に伝える機会を失った。

◇◇◇

9. 可愛い犬

「あ、可愛い」
「犬好きですか?」
「好きよ。――桑原君は?」
「オレは猫っす」
 と言うより猫が世界一!!
 握りこぶしを握って叫ぶ。
 私はあることに気付いて苦笑しながら呟いた。
「ああ……永吉君ね」
「永吉が一番っすよ!!!」

◇◇◇

10. 硝子のナイフ

「何やってるの」
「硝子のナイフって切れるのかなって」
「だからって自分自身で試さなくても」
「うん、なんとなく」
 鉄の臭いが鼻につく。
 それでも慌てることなく……半分だけでも妖怪の私の怪我はすぐに治る。

2018年11月19日

Posted by 五嶋藤子