5行以内で50のお題 21~30
21. 宛先のない手紙
拝啓。師叔は今どこにいらっしゃるのでしょうか。
――まだるっこいことは嫌いなので単刀直入に書かせていただきます。
さっさと帰ってきてください!!
このままじゃ師兄が過労死しちゃいます!!
◇◇◇
22. 赤い靴
綺麗な靴を見た瞬間に思い出したのはプラントを守る為に存在する者たち。
弟のまとう、その色にとてもよく似ていた。
一緒にいた親友は私に似合うと勧めたけれど、私には履けない。
私にとって誇りの色を、踏むことは出来ない。
◇◇◇
23. 望んだ世界
望んだのはこんな世界じゃなかった。
ただ、皆の平和だった。幸せだった。
けれどこれではプラントの平和までも夢のまた夢。
プラントの平和を勝ち取るためには“彼女たち”に退場願うしかない。
だからこそ俺たちは動き出したんだ。
◇◇◇
24. たとえ声を失くしても
必要とされると思っているのですか?
……いいえ、声を発していなくても必要とされると思っていたのですか?
とても残酷な問い。
そんな事はあり得ない、と、彼は冷たい瞳でわたくしに突きつける。
現実を。
◇◇◇
25. オルゴール
からからと雑音のほうが大きい音を立ててオルゴールが流れている。
「これ、どうしたんですか?」
「――以前、贈られたのじゃ」
最初の人間の弟子に。
そう口にした師匠は、どこか懐かしそうで、悲しそうだった。
◇◇◇
26. どこかへ
行ければ良いのだろう。
けれどこの名前で生きる以上、もう俺はプラント以外に暮らせる場所はない。
それでも良いと――プラントのためならそれでも良いと思った。
それでプラントに平和がもたらされるならば、それで。
◇◇◇
27. 羽を下さい
今まさにそう思う。
羽さえあれば、後ろに庇う人を連れて逃げられるのに、と。
けれど俺には羽はない。何も、ない。
「そんなことはないと思うが。ここまで堪えられたのじゃ、合格点をやろう」
出来るのは、ただ縋るだけ。
◇◇◇
28. 境界線
少しでもどちらかに片寄ればすぐにでも瓦解してしまう。
それはコーディネーターの住むプラントと言う世界。
市民は知らず、私たちは知っている。
そして、その既にバランスの崩れた土台を私たちは取り除こうとしている。
◇◇◇
29. 振り子
ナチュラル、コーディネーターの別なく振られる時。
真の歌姫も、偽の歌姫の別なく下される判断。
果たしてどちらがプラントのためになるのだろうか。
どちらが縋れる歌姫なのだろうか。
◇◇◇
30. 優しい嘘
目の見えなくなった私にアルシェが言った言葉を今でも覚えている。
『きっとまた見えるようになります』
今ならわかる――それは無理だということに。
そう、無理なんだ。
あれから様々な薬を学んだ今の私にはわかる。