その場にいるだけ
ぽちゃり、と水の音がした。
その音に顔を上げた視線の先には銀の妖狐。
「何をしているんです?」
「蔵馬…………」
「――どうかしたんですか?」
名前を呼んだ声が弱々しく、蔵馬に怪訝な表情をさせてしまう。
だからと言ってその理由を口にする気にはならなかった。
「…………」
「言いたくないのなら、無理に言わなくてもいいですけど」
蔵馬は他人が言いたくない事をすぐに気付く。
周りは楽だが、それを蔵馬以外にも求めてしまい困ることが多々ある。
そんな中でどうして蔵馬は気付くことが出来るのかと、周囲は思っていた。
経験の差かとも思ったが、蔵馬以上に長く生き、多くの経験を積んでいるだろう煙鬼たちは蔵馬ほどはない。
気付けば放っておいてくれるが。
そんなことを思っている間に蔵馬は隣りに座った。
だからと言って何を言うでもない。
ただそこにいるだけなので、煩わしさも何もない。
それに安心感を覚えつつ、ごろりと横になってただ時がすぎるのを待った。
– END –